なかなか興味深い記事が掲載されていました。自動運転車関連の特許が許可されたというものです。ちなみにタイトルのSDVとはSelf-Driving Vehiclesの頭文字を並べた造語です。
話題の米国特許(US9,566,986)の特許明細書はいろいろなところから入手可能ですが、以下に米国特許庁(USPTO)のLinkを添付しておきます。
Controlling Driving Modes of Self-Driving Vehicles
記事の解説の通りなのですが、自動運転車の運転について、コンピュータによる自動運転とするのか、ドライバーによる手動運転とするのか、その切り替え方法をクレームしています。
基本的には自動運転を旨とするのですが、所定の状況にもとづく自動車の判断によってどちらかのモードを選択します。
特許のコアとなるclaim1は比較的簡単です。全文を引くと長くなるので簡単に要約すると、
- 自動運転中に異常を検知したら
- この事態に対する自動運転車の対応能力を判定し
- この事態への運転者の対応能力を取得し
- 自動運転の能力と運転者の能力を比較して
- 能力の高い方に自動車の運転をさせるように選択する
のような流れで自動車自身が運転主体を選ぶこととなります。
どうでしょうか、これだけ見ると至極当たり前のことしか言っていないように感じられるのではないでしょうか。
他にもクレームが20まであって、claim2からclaim11までがclaim1のもう少し具体的な内容を示した方法クレームとなっています。そしてclaim12からclaim18までがプログラムクレーム、最後claim19からclaim20までがシステムクレームです。
ちょっと見ただけですが、それぞれのカテゴリで適切に調整されていて好感が持てるクレーム建てになっています。
発明の主体である自動運転の方法に限定せず他のカテゴリも設けるなどしており、ちょうどよい加減でカバーされている印象です。
クレームこそ20個もありますが、すべてのベースになっているのは最初に掲げたclaim1です。ベースになっているということは、このクレームの内容が一番広い権利範囲と考えて差し支えありません。
この発明の実現性も含めた成立要件となっている運転者の能力、自動運転車の能力とは何を指すのかについて、claim2以降に個別具体的に書かれた限定クレームはあるものの、その限定のないclaim1が権利になったのは出願人にとっては幸運でした。なぜなら、具体的にどのような判断要素を用いるにせよ自動運転の解除判断は少なからずclaim1の判断方法に含まれますし、これからもそうなるだろうと思えるからです。
一つ難点を挙げるとすれば、運転者の能力を判断要素として構成要件に採用していることです。今現在の自動運転システムは基本的には運転者についての情報は判断要素には影響を与えません。自動運転車に乗っているドライバーは運転免許を取得した一定の能力者であり、偶発的な事象により自動運転モードが強制的に解除されてもドライバーによる代行が可能であることが前提となっているからです。
したがってこの特許が成立した今現在でも、既存の自動運転車は同特許には抵触していないと考えられます。
しかしながら、自動車の運転が完全自動化されたあかつきには、この特許はおそらく基本特許となるもので重要な権利になるのではないかと思われます。
蛇足ですがいくつか補足します。
この特許出願は2015年9月25日にPPH(Patent Prosecution Highway)を伴って出願されました。PPHは特許審査ハイウェイと言われる申請手続きです。特許庁での審査は普通は待ち行列のように出願順でなされますが、一定の状況下にある発明の出願については優先して審査を受けることができます。出願日から数えて2016年10月4日というほぼ1年足らずでNotice of Allowanceが打たれていますので十分早い審査でした。そして2017年2月14日に権利が付与されました。
また、審査過程を見ると一度の拒絶(Reject)も打たれることなくストレートでAllowanceを受けています。許可理由(Reasons for allowance)でもclaimの単なる引き写しとなっていて、具体的にclaimのどの構成要件が評価されたのか確認できませんでした。(引き写しされていること自体はよくあることで珍しいことではありませんが)
仮にこの権利で侵害警告を受けるようなことがあれば、公知例を探してきて権利行使を無効にするという防衛策を採ることは難しいかも知れません。
[…] 以前、少しだけPPHについて触れたことがあります。(「SDV特許」) このときは記事に登場した米国特許がこの制度を利用して短期間に権利化されています。先ずは日本で出願され、 […]