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慣用商標

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 商標は商売を行う際の”信用”を守るという機能を担います。知的財産、工業所有権とはいうものの、商標というものは他の三法(特許、実用新案、意匠)の法域とは少しばかり趣旨を異にしています。むしろ著作権に近いと言えるかもしれません。
 ざっくり言うと、商標は商人の”信用”を、著作権は”創作者”の尊厳を守るために存在します。

 商売の信用という性質から、他の権利と大きく異なる点が生じてきます。それは「更新可能」というものです。

 本来の工業所有権とは開示の代償として独占権を与えるものです。独占権を国として保障する代わりに、国としての技術レベルを上げていこうとする考え方に立って制定されている法律です。
 しかしながら、独占権というのは非常に強い権利のため、いつまでも独占を許していると業界全体としての”底上げ”が図られず、却って産業の発展にブレーキを掛けてしまうという二面性を有しています。したがって独占権は付与されてから所定の期間を経ると消滅し、誰でも実施可能となるいわゆるパブリックドメインとなるのです。

 商売は、その商人(商社、商店及び製造者)が生業として継続する限りは理論上はいつまでも続きます。逆に、商標の使用を独占させたとしても誰一人として困ることはないのです。もっとも、売れ筋標品に”便乗”しようとする輩を除いては。

 さて、次に消費者の購買行動について考えてみます。人は物を購入するとき、何をもって購入品を選択するのでしょうか。
 一つは、一度購入したことがあり、その製品が満足のいくものだったから、もう一つは、他人からの勧めや評価を見て良さそうと思ったから、そして最後は、より安価だったから、という感じでしょうか。

 最後の安価だったから、というのは知的財産とは関連が薄いので除くと、残りの2つは製品あるいは商品の特定が必要となります。では何をもってそれを選択するかと言えば、商品名やメーカー名を見て、と言えるでしょう。つまり商品名やメーカー名こそが商標であり、商標権が守るべき”信用”が化体したそのものなのです。
 そして”信用”は新規か否かにも影響されません。今までにない新しい商品名だから守るべき”信用”が生じるということではありません。然るに商標には新規性も要求されません。よって他の工業所有権などと異なり、商標権は唯一更新が許されているのです。

 では、人は商品名やメーカー名のみにより商品、製品を見分けているのでしょうか。

 実際にはもっと多様で、文字で記述された名称のみならず、図形や色彩の組み合わせ、さらには音、動きまで識別情報と成り得ることがお分かりになるでしょう。
 今回取り上げた記事は、お菓子の形状を立体商標として権利化しようとするものです。

 記事のお菓子のように、一度世に出た商標について商標を得るためには、誰の商品、製品であるかが世間一般的に認知されているものでなければなりません。全国区であるとか、一般人にもあまねく知られている、といったことまでは要求されませんが、少なくとも業界内では知られている程度の認知度は必要です。
 裏を返せば、その商品、製品は良く知られているけれど、誰が作ったものかが分からなくなってしまったものは、どれだけ有名であっても商標権は得られません。たとえば、ホッチキスというのは商品名であり、本来はステープラーという物品です。ホッチキスと言っても、もはや誰の商品なのか認知することはできませんので商標権を得ることはできません。これを慣用商標と言います。
 このお菓子の形状も、他の製菓会社から同じような形のお菓子がいくつも販売されていたら、商標権は得られなかったかも知れません。

 商人の立場で考えれば、それが慣用商標であろうがなかろうが、自己の営業においては守られるべきなのですが、いかんせん独占使用を許してしまうと他の事業者にあまりにも酷であると考えられるために商標権を与えられないということが起こり得ます。
 自己の事業にとって重要な商標であるならば、その商標を同業他社が出願してしまう前に商標登録出願をするのはもちろん、権利になったあとでも自己の商標であることをきちんと示し、慣用化させない努力が不可欠です。それを怠ると、いざ更新しようとしたときに、不本意にも「慣用商標」とされて大切な権利を失ってしまうかもしれません。

明治「たけのこ」も出願:日本経済新聞

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