昨今の製品は一社で製造されることは極めてまれである。少なくとも部品ベンダーが存在し、それを集約して一定の機能を発揮する製品を製造する完成品ベンダーがある。その方が専門性を生かすことが出来るし、産業構造として効率的である。餅は餅屋の考え方である。
また、近年の先端技術をつぎ込んで製造される製品は常に新たな技術を応用してより便利で高性能な製品が作られるのだが、他方で、たとえその1つの製品だけが高性能でも、他の製品と連携できなければ使用ケースも限定されてしまう。それは、近年の社会構造からして他のシステムとの連携動作が望まれ、独善的なシステムは利用価値を生まない。たとえば燃費の良い自動車を開発して販売しても、公道を走れないとしたらその利用価値を大きく損ねてしまうようなものである。
”他のシステムとの連携”を実現するためには標準規格を定めることが有効である。その規格に沿って製品を製造すれば、少なくともその規格に沿った他社の製品とも連携することができる。もう一歩踏み込んだ言い方をすれば、ある製品を製造する会社が”技術的に知らなくても”一定以上の品質のよい製品を製造することができるのである。
今回取り上げる、自動車業界が好例となる。自動車の開発、製造に関しては超一流でも、IoTの分野である”コネクテッドカー”の技術は畑違いだ。それであっても標準規格を守ることで、目的の(畑違いの)技術、機能を自社の製品に加えることが出来る。
一方で、標準規格は公の技術であるから、実装方法はさまざまであったとしても目的やなしうる結果は外観から判明し、第三者の指摘を容易にする。”なしうる結果”とはすなわち、通信関連の標準規格であれば、つながる、通信できるということに他ならない。ここが最初のポイントである。
次に、標準規格として詳らかになっているからといって、自動車ベンダーが車載用通信モジュールを開発、製造できることにはならない。前述したように産業構造的に分業が望ましい故に、そういった部品ベンダーから購入することが普通に行われる。自動車会社は部材の購入に際し部品ベンダーを知財補償を結ぶのが通例である。
しかしながら、完成品である製品は実施者が特定しやすい反面、それに使用されている部品のベンダーを特定するのは、それの製造者でない者には難しいきらいがある。また、部品単体であっても製品全体であっても特許権における実施の客体としてはどちらも同格である。ここが次のポイントとなる。
記事はそのような分業構造や契約による対処が意味をなさない危険性を示唆するものである。現に法律を盾に、そういった産業構造を無視した、投資名目で割の良い相手に特許侵害訴訟を打ってくるNPEの台頭によって、そういった従前の対処策の有効性は大きく摩滅されている。まさに産業界を食い物にする外来種の襲来といえよう。もはや特許権制度の精神は失われ、顧客満足を追求する企業にとっては阻害要因でしかない。