世界的な汎用計算機メーカーからコンサルティング事業会社へと転身した某大手IT企業が商用化しているAIの応用範囲が広がっているようです。Wを頭文字に持つこのAIは前出の企業が早くから開発をしていたソフトウェアです。この時点ですでに提供ソリューションの一部として確立していることもあり、他社より一歩も二歩も先を歩いている印象です。
ソフトウェアとしてのAIが出てきたとき、いったいこれが何に使えるのか、というほど限定的で応用範囲の狭いものでした。データマイニングの結果得られたルールを組み込んだだけ、といった感じだったかと思います。
その後、計算機の能力の向上と事象データの蓄積、そしてディープラーニング(深層学習)の考え方が広まったことにより一気に実用化が進んだように見えます。
AIの知識ベースの構築を、開発者による思考アルゴリズムからシステム自身で行う自己学習へと変化させることができたことは革新的な変化だったと思います。
これを契機として一気にAIの応用分野が拡大しました。
得たいの知れない技術、AIは何ができるのか、そもそも何をどうしたらAIと呼べるのか、一昔前までは理論上やSFのイメージでしかなかったものが、具体的な形を持ち始めたのです。
それにより事業化をためらっていた企業がAIソリューション事業に参入し始めました。前出の大手IT企業がコンサルティングをしている個々の事業分野に以前から強みを持つ企業が、過去の事業の中で蓄積した膨大なデータをAIにディープラーニングさせることでさらに企業価値を高めるべく努力をしています。
AIは一つの解析ツールとしての地位を確立し、おいおい一般化されていくのではないかと思います。
ここまで見てくると、あたかもAIの汎用化が近いように思えてしまいます。しかしながら、路上走行を始めたなどと話題性は高いものの自動運転車の実用化はまだまだというのと同様に、新規の分野にAIを応用するにはいくつかの課題があります。
大きくは二つの壁があるように思います。
一つの壁はAIに何をさせるかをモデル化することです。要するにどんなデータを学習させて、どのような思考結果を出力させるのか、ということです。人が業務の中で行う思考や行動は一つながりのものであり、そのすべてをAIに学習させることはできません。得たい結果を導けるようにするには、何を数値としてデータ化すれば実効性を高められるのか、それを設計する”能力”が求められます。
技術的にAIを理解してもこのような現実世界へのマッチングは一朝一夕には築くことはできません。これはマニュアル化されたものはなく、おそらく近い将来にも出てくることはないでしょう。
もう一つの壁はAIに学習させることそのものです。学習させるデータは何でも良いわけではなく、ここにも”能力”が必要となります。思考過程の確立に無意味なデータばかりでは発散するばかりで期待する導入効果は得られません。
AI自身が、どのデータを学習し、どのデータを捨てるのかが判断できるようになるまでは時間がかかります。質の良いデータを収集するためにも”経験”が必要です。
つまり汎用的もしくは新規分野にAIを適用する場合には、前出の先駆的な大手IT企業が依然として圧倒的優位に立っているといえます。実効性のある”良質”なAIを構築するには、概念を理解するよりも数段ハードルが高いはずだからです。
この状況はAIのコモディティー化によりすべての業態についてのモデルが確立するまで続きます。
「ワトソンは一番賢いと思うが教えるのが大変だ」(記事より抜粋)という一文がすべてを物語っているように思います。