パテントトロール(「パテントトロール」)の矛先が自動車業界に向けられています。
記事に登場するライセンス会社がパテントトロールかどうかについては意見が分かれるところかと思いますが、既存の産業界に対して積極的にライセンスを迫ってくるというところはパテントトロールそのものです。
それらが最近積極的に利用しているのがITCです。
ITC(International Trade Commission)は米国の機関で、米国際貿易委員会と言います。米国内への輸入に対し不公正がないかを調査しており、問題があれば輸入差し止めをすることができます。賠償金といった金銭面での懲罰は課されることはありません。最大の問題は米国への輸出が止まることです。
グローバルに取引のある企業で、米国輸出を止められて影響を受けないところはほとんどないはずです。それは日本に限りません。
特許権侵害の場合、原則として他国への輸出に対して罰が科されることはありません。あくまで他国から自国に輸入された物品が自国の権利を侵害していれば、その輸入を手引きした国内企業に対して自国の法律による手続きと罰則を科すものです。他国に対しては”制裁”はできても海外の他国籍企業を自国法で罪に問えるわけではありません。
もしも裁判になったときは証拠集めから始まり、米国であればディスカバリという互いに情報を開示する手続きがあって、和解が成立しなければそのあと法廷で主張を戦わせます。そして侵害が確定すれば販売禁止等の強制力が発生します。
早々にどちらかが和解しなければ、裁判に年単位の時間が掛かります。技術的進歩の早い分野であればそれまでの機会的損失は計り知れません。
特許侵害として争った場合、どうやっても自国民の保護が不十分になってしまうこともあります。
陪審制ではないもののITCも双方の意見を聞く機会があるなど裁判手続きに似た手順で判断が下されますが、こちらの場合には仮処分というものが出ます。国内の裁判の進捗を待たなくても数か月あれば輸入を差し止めることができます。
米国国内産業を守るために創設されていることもあり、非常に強力な制度です。
最近のパテントトロールは米国輸出依存のグローバル企業に対し、特許権侵害と同時にITCへ輸入差止めを申し立てます。このとき特許権という既得権がありますから、権利者に手厚い米国では権利侵害か否か深い議論になる前に仮処分が出ることも多く、そうなれば真面目に事業をしてきた輸出元の企業は非常に困る事態となります。まさしく寝耳に水の事態です。
今度は逆に差し止めをさせないために海外企業の方が権利侵害でないことを証明するために裁判を急がなければならなくなります。
記事によると日本の企業だけでなく世界の大手自動車メーカを相手にパワーステアリング関連の権利で侵害を主張しているもようです。おそらく大半の企業は権利侵害していないと思っていても和解金を支払って差し止めを回避すると思われます。和解が遅れれば遅れるほど和解金が吊り上がっていくような和解案も提示しているかも知れません。
たとえ法的には正当な権利行使であったとしても、このように事業に無関係な企業から金銭目的で妨害を受けるのは本当にやり切れません。